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2022/02/18
【11】製造業におけるプロジェクト管理の仕組み作り(1)
今回は製造業のプロジェクト管理について話をしたいと思う。
製造業では余剰在庫をできるだけ減らすため、受注してから設計を始める個別受注生産に事業を変更して行う企業がよくある。
たしかに個別受注生産であれば余剰在庫を減らすことは考えられるが、設計・調達・組立まで一気通貫で工程管理、リソース管理をしていかないと、納期遅延やリソース不足、コスト増加を引き起こす。
つまり、生産管理以外にプロジェクト管理の考え方が必要になってくる。
では、個別受注生産におけるプロジェクト管理について述べていきたいと思う。
海外企業との競争など製造業も納期要望の短期化が進んでいるなか、多数の短納期案件を受注する製造業が増えている。経営陣や組織マネージャ、営業は、現案件がいつ完了して次の案件を始められるのか、人の都合はつくのかを、常に設計部門長・調達部門長・組立部門長に状況を確認し、お客様と話を行っていく。しかし、案件が増えてくると全案件の状況を把握することが困難になってくる。
このようななか、企業の全案件状況を確認していくため PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を一つの組織として設置する企業も出ている。
PMO は企業のプロジェクト管理を横断的に支援する立場として、各案件の進捗状況やリソース状況(もちろんその他もあるが)をモニタリングし、経営陣や組織マネージャへの報告、また対応が必要なプロジェクトに必要な支援を行っていく。
これにより企業として全案件の状況を分かるようにする考えであるが、PMO が全案件をモニタリングするための全社で統一した仕組みとシステムが必要だ。
上図は全社で統一した仕組みとシステムがない状態で起こるケースである。上図では、設計部門で個別に対象製番(案件)の管理をしており、調達部門や組立部門にはいつ図面があがってくるかがよく分からない。また調達部門や組立部門もそれぞれのシステムで個別に管理しており、設計部門からするといつまでにどの図面を作れば良いかが分かりづらい。さらに PMO は定期会議報告で受けた情報しかなく、最新の製番進捗状況が把握できない状態が起きている。
このような状態の時、企業は以下が可能となるシステムを検討することが多い。
- ・設計、調達、組立の進捗状況を一気通貫で確認できる(大日程、中日程レベル)
- ・必要スキルのリソース負荷状況を確認し要員調整が行える
- ・全製番をまとめて管理することができる
- ・全社が同一の仕組みで使える(海外拠点がある場合は多言語対応)
上図は全社で統一したシステムを考えたケースの例である。
この例では、BOM 構成を利用して大日程、中日程の構成を作り、小日程(生産スケジューラなど)と統合させて設計、調達、組立を一気通貫で確認できるようにした仕組みである。
製番の下を設計、調達、組立のフェーズにし、その下を BOM 構成にして遅れをトレースする考え方だ。これにより PMO はいつでもどの製番の、どのフェーズで、どの部品が遅れているのかをトレースできるようになる。
では、システム作りの例をあげていこう。今回は Oracle Primavera P6 と BOM システム、生産スケジューラの連携をベースにしたシステムの例である。
下図は Oracle Primavera P6 に全製番を登録し、WBS を BOM 構成として BOM システムから取り込み、アクティビティ(作業レベルのタスク)を生産スケジュールの小日程の日付から取り込んでいる。またアクティビティにはどのフェーズの作業か属性をつけておく。
これらの取り込みにより小日程から中日程(BOM 構成)、大日程(フェーズ)、製番へと工程計画・進捗、リソース工数の予実が集計される。これで PMO は全製番の進捗状況とリソース状況がわかるようになり、設計、調達、組立では一気通貫の管理が実現され、図面はいつ出来あがるか、いつまでに作れば良いかがそれぞれ分かるようになる。
もちろん、システムを使う前に、事業戦略案件、案件規模、案件難易度など常にモニタリングが必要な製番の洗い出しや、アラートの対象となる遅延日数、リソース投入可能数、超過工数の設定などをあらかじめ決めておく必要がある。
では、PMO がこのシステムでどのように全製番の状況をチェックするか記述していこう。
下図は製番一覧である。ここでは計画より10日以上遅れている製番に対しマークをつけ、対象製番だけを絞りこんで確認している。下図では 5 製番が10日以上遅れている状態であり、PMO は毎日遅れている製番だけを確認できるようになっている。
ただし前述したように、遅れ以外にも戦略的に優先して確認したい製番や規模や予算など企業にインパクトが大きいものは、システムで確認できるようにしておく。
今回は遅れ製番に焦点をおいて、どのようにトレースしていくかを明記したいと思う。
上図により遅れ製番が確認できたので、次にこれらの製番のどのフェーズが遅れているかを見ていく。
下図は 5 製番をフェーズ別に切り替えた画面である。たとえば製番P00400では、調達と組立に遅れが生じていることが分かる。
さらに、P00400の調達について部品構成を表示すると部品P-1、P-2、P-2-1に遅れが生じており、P-1とP-2-1については終了列に納品フラグの A(Actual)が無いことから、手配したが、未納ということが分かる。
また組立の遅れに対してリソース負荷状況を確認してみると、組立上級スキル(リーダーレベル)の負荷が高くなっており、調整が必要な状態になっていることも確認できる。
これで、PMO は全製番に対する進捗状況とリソース状況の確認や問題の抽出が
できるようになり必要な対策をどこに打てば良いかが明確になる。
今までは PMO の視点から話をしてきた。しかし、全社的に統一したシステムを使うとなると現業側からも見たい情報が見られるようにしたいものだ。今回はその一例をあげたいと思う。例えば、調達や組立では部品の入荷状況を一目で確認したいものである。調達と組立用の画面レイアウトを切り替えると、部品の発注数、入荷数、入荷率が各日程とともに分かるようになっている。これにより各部品の入荷状況がいつでも分かる。
また設計では、設計メンバーの稼働状況が気になる。設計メンバーの稼働状況画面に切り替えると、どのメンバーがどの製番でどのくらい稼働予定かが分かる。これによりリソース調整が可能となる。
以上のように PMO だけではなく、現業側の欲しい情報も用意することにより企業全体のシステムや仕組みの導入、運用がスムーズにできるようになる。
今回は製造業のプロジェクト管理をテーマに個別受注生産の全案件の工程、リソース管理の仕組み作りを説明してきた。
今回のように単体のプロジェクトではなく、複数プロジェクトをまとめて管理することを「プログラム管理」、経営戦略などによる優先度や規模、難易度などを入れて全プロジェクトを分析することを「プロジェクト・ポートフォリオ管理」という。
短納期で多数案件を管理する今回のような製造業では、全案件をモニタリングする組織やシステムを検討する企業が増えてきている。プログラム管理、プロジェクト・ポートフォリオ管理の考え方やシステムをいかに取り入れ、見える化できる仕組みを作っていくかが今後の鍵になっていくだろう。
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カテゴリ:プロジェクトマネジメント