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2022/02/24
【15】工程管理ツールは企業で使うと効果的(3)
【第13回】、【第14回】と2回に渡り「工程管理ツールは企業で使うと効果的」をテーマに、企業全体で活用することを想定した工程管理ツールの特徴として「グローバルコードなどの定義の標準化設定」「スケジュールシミュレーション」などを説明してきた。
今回はこのテーマの3回目として「一括変換を活用したスケジュールの見直し」について話をしたいと思う。
プロジェクトスケジュールを管理する場合、年単位にわたる大規模プロジェクトはもちろん、組立製造のような中小プロジェクトが多数ある場合でも総アクティビティ(タスク)数は数千や数万以上になるようなケースもある。
このような場合にとても苦労するのが、スケジュールの見直しや修正である。
例えば、契約締結遅れなど何かしらの理由によりプロジェクト開始が予定より遅くなるにも関わらず、工期を変えられない状態になってしまった場合にスケジュールをどう調整するか。いろいろなケースを想定してスケジュールを修正したいが、数千・数万のアクティビティを1アクティビティずつ見直して修正するのは至難のわざである。
このようなとき、全体の工期を数%短縮してみたら、マンパワーを増やしてみたらスケジュールは納期内に納まるか、影響はどうかなど検証してみたくはないだろうか。
下図は説明用にプロジェクト工期を500日間にしたサンプルである。
プロジェクト開始が100日遅くなり、かつ納期が変わらないという条件になってしまった場合、100日間短縮したスケジュールを作成する必要がでてくる。下図のサンプルは5アクティビティしかないが、実際に数千以上のアクティビティがあった場合は、1アクティビティずつ調整したらとてつもない時間を要することになる。
このような場合、工程管理ツールでは「一括変換」というものがある。
上図で工期を100日短縮するためには、ひとつの例として500日×0.8=400日つまり現工期を全体的に20%短縮(0.8倍)すれば、下図のように400日で完成させるスケジュールができる。
工程管理ツールの「一括変換」を活用すると、条件式を記入することにより「すべてのアクティビティ」に対し「アクティビティ期間を0.8倍」するという計算をさせることが可能だ。管理するアクティビティ数が総合で数千や数万になる場合は、一度に条件式に従い一括変換されるため、スケジュールを作成する際にはとても効果的である。
また、一括変換は計算結果を確定する前にどのアクティビティ期間が何日から
何日へ変更されたか確認できるレポートが表示されるため、レポートを確認してから確定するか変換前に戻すかを決めることができる。
【第14回】で説明したシミュレーションをあわせて活用すれば、結果が想定外の場合は削除するだけで良いので、さらに確実に活用できる。
では、実際の工程管理ツールの画面例を紹介したいと思う。
今回も企業で活用できる工程管理ツールとして Oracle Primavera P6 の例で説明する。
Oracle Primavera P6 ではグローバル・チェンジという「一括変換」を持っており、下図はグローバル・チェンジの設定画面である。
設定画面は3つに分かれており、① が対象とするアクティビティの絞り込み条件、② が変換する項目とその条件(数式など)、③ が ① で対象外となったアクティビティの変換項目とその条件である(① は記入がなければ全アクティビティ対象、③ は記入がなければ変更なし)。
※いわゆる① if~、② then~、③ else~ の条件である。
上図では、① マイルストン以外(タスク)のアクティビティに対して、② アクティビティ当初期間(計画期間)を現在設定の当初期間×0.8倍にする、③ マイルストンは変更なしと設定している。
設定が完了したあと画面上の変更ボタンをクリックすると一括変換の結果が表示される。
下図はグローバル・チェンジ(一括変換)の結果レポートである。アクティビティIDと変換項目(フィールド)、既存値(変換前の値)、新規値(変換後の値)が表示されている。
たとえば、EC1000アクティビティは期間が41日から33日(少数第一位四捨五入)に変換されているのがわかる。
このレポートを確認しデータに反映させる場合は「変更の確定」ボタンを、変換前に戻す場合は「変更の取り消し」ボタンをクリックする。
「変更の確定」ボタンをクリックした場合は、スケジュール画面に反映される。
下図はスケジュール期間変更前と変更後である。すべてのアクティビティの当初期間が20% 短縮されているのがわかる。
グローバル・チェンジの使い方に慣れてくると、いろいろな一括変換を考えるようになる。
下図では 1.期間10% 短縮 のグローバル・チェンジと 2.工数10% アップ のグローバル・チェンジを設定している。
この設定の組み合わせは次のようなケースを想定している。
1.プロジェクトが予定より遅れており、キャッチアップのためのスケジュール見直しをするため、まだ完了していない(未開始と進行中)10日以上期間が残っているアクティビティに対し、期間を10% 短縮する。
2.期間を短縮するための策として対象リソースの工数を10% アップとする。
では 1.と 2.それぞれの設定の中身について説明していこう。
まず 1.期間10% 短縮 の設定は下図のとおりとなっている。
① の条件が「完了していない(未開始と進行中)、かつ残期間が10日以上のアクティビティ」、② の条件が「対象アクティビティの残期間を現在の0.9倍(10% 短縮)」、③ の条件なしとしている。
この設定により、プロジェクトのまだ完了していない部分のインパクトが高い(10日以上)のアクティビティ期間を10% 短縮することになる。
次に 2.工数10% アップ の設定は下図のとおりとなっている。
① の条件が「Laborer-Constructionリソース」、② の条件として「対象リソースの残工数を現在の1.1倍(10% アップ)」、③ の条件なしとしている。 この設定により、これから投入される Laborer-Constructionリソースの工数は10% アップすることになる。
これら 1.期間10% 短縮 と 2.工数10% アップ のグローバル・チェンジを組み合わせることにより、遅れているプロジェクトの Laborer工数を+10% かけて全体期間を10% 短縮した見直しスケジュールが完成する(もちろん詳細な調整などは必要)。
これはマンパワーをかけてキャッチアップするクラッシングの考え方を工程管理ツールで実現したものである。
ここまで、工程管理ツールの一括変換を活用して、スケジュール遅れをキャッチアップする例を紹介してきたが、これに【第13回】の定義の標準化設定や【第14回】のスケジュールのシミュレーションをあわせることで、さらに効果的に活用できる。
例えば、下図のようにグローバル・チェンジ(一括変換)のパターンを企業ナレッジとして蓄積し、全ユーザーへ標準提供することで定義の標準化が実現する。
スケジュール担当者は企業ノウハウとして提供されたグローバル・チェンジと、スケジュールのシミュレーションにより複数の工期短縮パターンを比較しながらスケジュールを作成することができるのである。
さて、今回「工程管理ツールは企業で使うと効果的(3)」というテーマで、企業全体で活用する工程管理ツールの「一括変換を活用したスケジュールの見直し」として工期短縮の例を紹介してきた。
工程管理ツールを始めとしたプロジェクト管理システムへの期待は、企業型への対応、JV(ジョイントベンチャー)など複数社の共同プロジェクトへの対応など時代と共に大きく変化している。
ただし、これらには企業としてのプロジェクト管理の考え方が必要なことを忘れてはならない。考え方とシステム(もちろん人材育成も)が組み合わさることにより、企業としてのプロジェクト管理の仕組みができあがる。
企業としてのプロジェクト管理仕組みをしっかり構築することにより強い企業が生まれるであろう。
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カテゴリ:プロジェクトマネジメント